オーストラリアの病院や検査機関では、血液・組織・体液などの検査結果が診断や治療方針の決定に大きく関わります。その中心で活躍するのが、Medical Laboratory Scientist(臨床検査サイエンティスト)です。
Medical Laboratory Scientist(ANZSCO 234611)は、オーストラリア政府の技能職リスト(MLTSSL)に含まれる需要の高い職種のひとつであり、将来的な永住権申請を検討する方にとっても重要な選択肢になり得ます。
ここでは、オーストラリア大学留学専門サポートセンターの視点から、
- オーストラリアにおける臨床検査関連職の種類
- Medical Laboratory Scientist の仕事内容とキャリア
- 永住権との関係
- 大学・大学院での進学ルートと代表的なコース
- 日本の理系バックグラウンドからキャリアチェンジする場合のポイント
を整理し、日本からオーストラリアの大学・大学院進学を目指す方に向けてわかりやすく解説します。
オーストラリアの臨床検査関連職の3つのカテゴリー
日本では「臨床検査技師」という名称でまとめて語られることが多い分野ですが、オーストラリアでは主に次の3職種に分かれており、求められる学歴や役割が異なります。
1. Pathology Collector(採血・検体採取担当)
患者から血液や検体を採取し、検査室に届ける仕事です。自宅や高齢者施設、病院などを回り、採血や採尿などを行います。通常は専門学校レベルの Certificate III in Pathology Collection(約半年〜9か月)で必要なスキルを身につけます。
2. Medical Laboratory Technician
Medical Laboratory Scientist の指示・監督のもとで、検体処理や基本的な検査を担当するポジションです。オーストラリアでは、Diploma レベルの医用検査(Laboratory Technology など)を修了し、一定の実務経験を積むことで目指すケースが一般的です。
3. Medical Laboratory Scientist(臨床検査サイエンティスト)
病院や大規模検査機関において、検査全体の設計・実施・結果の評価までを担う高度専門職です。多くの場合、
- 4年制学士(Bachelor) もしくは
- 関連分野の学士+2年制修士(Master)
といった高い学歴が求められ、Australian Institute of Medical and Clinical Scientists(AIMS)が定める基準を満たす必要があります。
Medical Laboratory Scientist の仕事内容とキャリアの広がり
Medical Laboratory Scientist は、病理学(Pathology)の広い領域で活躍します。具体的には、
- 血液学(Haematology)・止血検査
- 臨床化学(Clinical Chemistry)・生化学検査
- 微生物学(Microbiology)・ウイルス・細菌の同定
- 免疫学・免疫病理学(Immunopathology)
- 組織・細胞診(Histopathology / Cytology)
- 分子病理(Molecular/Genomic Pathology)
などの分野で検査を設計・実施し、検査結果に責任を持つ立場です。検査の品質管理(Quality Control)や新しい検査法の導入・評価、結果の解釈を通じて臨床医をサポートします。
オーストラリア政府の職業データベースでも、Medical Laboratory Scientist は「平均以上の給与水準」かつ将来需要が強い職業として位置づけられています。
永住権との関係:MLTSSL掲載職種としての可能性
Medical Laboratory Scientist(ANZSCO 234611)は、オーストラリアの Medium and Long-term Strategic Skills List(MLTSSL) に掲載されている職種です(執筆時点情報)。
これにより、条件を満たせば次のようなスキル系ビザを検討できる可能性があります。
- 技術独立永住ビザ(Subclass 189)
- 州スポンサー技術永住ビザ(Subclass 190)
- 地方州スポンサー技術ビザ(Subclass 491)
- 地方雇用主スポンサー経由のビザ(Subclass 494)
- 雇用主スポンサー永住ビザ(Subclass 186) など
実際のビザ要件は年ごとに大きく変わりますし、英語スコア・年齢・職歴・ポイント制 といった複数要素の組み合わせで判断されます。将来的な永住権の可能性も踏まえて進学プランを立てたい場合は、登録移民エージェント(MARA登録エージェント)への相談と、当センターによる大学進学プランニングを組み合わせるのが安全です。
AIMSによる技術査定と英語要件の概要
オーストラリアで技能ビザを目指す場合、多くのケースでは AIMS(Australian Institute of Medical and Clinical Scientists) が実施する Skills Assessment(技術査定) をクリアする必要があります。
AIMSのガイドラインでは、主に次の3パターンが示されています。
Option 1:AIMS認定大学(または大学院)コースの卒業
- AIMSが「認定(Accredited)」としている学士または修士コースを修了すると、原則として 筆記試験なしで Medical Laboratory Scientist として適合判定を受けられます。
- どの大学・専攻が認定されているかは、AIMS公式サイトの Accredited Programs List から最新情報を確認する必要があります。
Option 2:関連理系学士号+実務経験+AIMS筆記試験
- 生物学・化学・バイオメディカル系など 「病理学関連科目を十分に含む理系学士号」 を修了し、
- 一定の年数の診断検査ラボでの実務経験
がある場合、まず書類審査(Stage 1)を受け、基準を満たせば AIMS Professional Examination に進むことができます。合格すれば Medical Laboratory Scientist としての査定が出るイメージです。
Option 3:大学院レベルの研究+臨床検査経験+特別試験
専門性の高い大学院修了や、特定分野での長期の臨床検査経験がある場合に適用される特別ルートもありますが、個別のバックグラウンドで判断されるため、事前の詳細な確認が必須です。
英語要件(目安)
AIMSのスキル査定では、通常 IELTS 7.0(Academic または General、全バンド7.0以上) 相当の英語力など、高めの基準が求められます。
一方で、オーストラリアでMedical Laboratory Scientistとして働くために国家ライセンスは義務付けられておらず、上記の査定を完了していない段階でも、大学コース修了後であれば就職自体は可能な場合があります。ただし、ビザ申請やキャリアの選択肢を広げる意味で、最終的にはAIMS査定通過を目指すのが一般的です。
大学・大学院で学ぶ:代表的な進学ルート
オーストラリアの大学では、Medical Laboratory Scientist を目指すためのコースが複数開講されています。進学ルートは大きく分けて次の2つです。
① AIMS認定の学士号(4年制)に直接進学するルート
高校卒業後にファウンデーションコースやDiplomaを経由し、AIMS認定の Bachelor of Medical Laboratory Science / Laboratory Medicine に進学するパターンです。代表的な大学としては、
- Griffith University(Bachelor of Medical Laboratory Science)
- Queensland University of Technology, Curtin University, University of South Australia など
が挙げられます(認定の有無や期間は必ず最新情報を確認してください)。
② 関連学士号+AIMS認定修士号に進学するルート
すでに日本や他国で生物系・医療系の学士号を取得している方の場合は、
- Master of Laboratory Medicine(University of Tasmania など)
- Master of Medical Laboratory Science(Charles Darwin University など)
といった修士コースを選び、2年間でAIMS基準を満たすカリキュラムを履修していくルートも有力です。タスマニア大学のように、AIMS公認の修士プログラムを提供している大学もあります。
日本の理系バックグラウンドからキャリアチェンジする場合
日本で以下のようなご経歴のある方は、オーストラリアでのMedical Laboratory Scientist キャリアへのステップアップが比較的現実的です。
- 理学部・農学部・薬学部・医学検査系などの理系学士号を保有している
- すでに日本で臨床検査技師として実務経験がある
- 病院・検査センター・研究所で病理関連の職務経験がある
この場合、
- これまでの履修科目が AIMSの「Acceptable Science Degree」要件をどの程度満たしているか
- 臨床検査の実務経験が AIMSの必要年数にカウントされるか
- 新たに学士レベルからやり直すべきか、修士レベルから編入できるか
によって最適ルートが変わります。当センターでは、成績証明書(英文)・職務経歴 をもとに、AIMSのガイドラインと照らし合わせながら進学レベルの目安をご一緒に整理することが可能です。
大学選びのポイント:AIMS認定+地方キャンパスも意識する
Medical Laboratory Scientist を目指す場合、大学選びでは次のポイントが特に重要です。
- AIMS認定(または認定申請予定)のプログラムかどうか
- 卒業後に取得できる 卒業ビザ(Subclass 485)の期間 とキャンパス所在地
- 学費・奨学金・生活費のバランス
- 病院や検査機関との提携・実習(Work Placement)の充実度
近年は、地方エリアの大学に進学することで卒業ビザが長くなる制度も導入されており、地方都市キャンパス(例:タスマニア、ダーウィン、地方州都など)で学ぶことが長期キャリア形成にプラスに働くケースもあります。
一方で、学費や生活環境、研究設備なども大学ごとに大きく異なります。当センターでは、
- Griffith University(ゴールドコースト)
- University of Tasmania(ホバート)
- Queensland University of Technology(ブリスベン)
- University of South Australia(アデレード)
など、複数大学の情報を比較しながら、希望条件に合わせた候補校リストの作成をお手伝いしています。
出願準備のステップ:いつから何を始めるべき?
Medical Laboratory Scientist を本気で目指す場合、他専攻と比べても準備すべきことが多いのが特徴です。目安として、次のようなステップをイメージしておくと進めやすくなります。
Step 1:情報収集・キャリアイメージの整理(渡航の1.5〜2年前)
- 日本でのこれまでの学歴・職歴を棚卸しする
- どのレベル(学士/修士)への進学が現実的か確認する
- AIMS認定コースの有無や卒業後のビザの取りやすさも含めて大学候補を比較する
Step 2:英語スコア対策(1〜1.5年前)
- 各大学の入学要件(多くは IELTS 6.5〜7.0)とAIMS査定で求められる英語レベルの差を把握する
- 必要に応じて、英語コース(EAP/Academic English)+大学のパッケージも検討する
Step 3:出願書類・成績証明の準備(6〜12か月前)
- 日本の大学・専門学校から英文成績証明書・卒業証明書を取得
- CV(英文履歴書)や志望理由など、医療系らしい内容で整える
Step 4:入学許可・ビザ申請・渡航準備
- オファーレター受領後、COE発行・学生ビザ申請へ進む
- 滞在先(学生寮・ホームステイ・シェアハウス)や保険等も並行して手配する
当センターでは、大学選び〜出願〜ビザ申請サポート(提携エージェント経由)まで一連の流れをトータルでサポートしています。
まとめ:医療系・理系バックグラウンドを活かしてオーストラリアで専門職を目指す
Medical Laboratory Scientist(臨床検査サイエンティスト)は、
- 高度な専門性と安定した需要が見込まれる医療系職種であり
- MLTSSL掲載職種として永住権の可能性も視野に入り
- 大学・大学院レベルでじっくり専門性を高めていけるキャリア
です。一方で、
- 必要な学歴・AIMSの基準・英語力が比較的高い
- 進学ルート(学士からか、修士からか)によって費用や年数が大きく変わる
- ビザ制度の変更リスクも踏まえて長期プランを立てる必要がある
という点も無視できません。
オーストラリア大学留学専門サポートセンターでは、
- 医学・看護・医療科学専攻を含む医療系専攻に特化した大学情報の提供
- 日本のご経歴を踏まえた最適なレベル(学士/修士)の提案
- 将来のビザ方針も視野に入れた長期プランニング
を行っています。Medical Laboratory Scientist や関連分野への進学を具体的に検討したい方は、ぜひ一度ご相談ください。


